第817号

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日州医事 第817号
介護医療院を司るには総合診療医とMega Clinicが必要である

日南市 きよひで内科クリニック 河野清秀

 「看護師さん、肺を圧迫して呼吸を促して」特別養護老人ホーム(特養)の認知症患者の発熱急患を診察している場面です。
 当院は、昨年11月より別法人の特養かかりつけ医師(配置医師)をしています。特養の入居者は、 65歳以上の介護度3以上で4、5度の方がほとんどです。ほぼ車椅子状態以上の易要医療者です。要介護の原因は脳血管障害、認知症で胃管等を挿入されている人もいます。特養患者の発熱の原因は、嚥下性肺炎等の内科疾患だけでなく、蜂窩織炎や偽痛風の発熱もあります。総合内科的な知識だけでなく、整形外科的知識や皮膚科的知識といった総合診療医の知識が要ります。
 配置医師は、保険診療上日常の診察、検査が制限されています。そのため日頃の病態把握が不十分になりやすく、特養の急患は診断に時間を要し、時には他の外来患者の診察が停滞します。当院は、2人の担当医交代制の総合内科診療所なので何とか対応していますが、一人診療所では困難だと思います。
 ところで、政府は2025年問題について、全国の病床を15万床減少させる計画です。これは慢性医療が必要な患者を、療養型医療病床から介護医療院と称する新特養施設に移す方策です。療養型医療病床は100病床につき医師3人が必要ですが、介護医療院は100病床を1人で診ることができる制度です。全国の療養型病床で、15万床で必要な医師を4,500人から1,500人に減らす事が可能となります。入院患者100人を、3人で診るところを1人で診るのですから、療養者の大部分を占める多病高齢者を診るには、総合診療医的診察が必要になります。介護医療院の医師は少なくとも総合内科医か、できれば総合診療医が求められます。

 プライマリケア学会では総合診療医の育成を図っていますが、その育成はまだまだ不十分です。その育成方法の一つである地域枠学生が今年の総会の議題になりました。その総合診療医の義務期間(一般的には9年間)後の行き先が問題となりました。義務期間だけではなく、終生、総合診療医として活躍できる場が必要との事でした。介護医療院は総合診療医の活躍できる場所の一つになると考えます。
 また介護医療院の療養者は、今までの療養型医療病院の入院患者と変わらないので、診療は24時間365日対応が必要です。これに対応するには、担当医交代制で少なくとも総合診療医3人が必要です。それに加えて病院と同等な24時間対応力や検査機能を備えなければならず、介護医療院診療を司るには、どうしても病院の外来と同等な診療機能を持つ大型診療所(Mega clinic)とならざるを得ないと思います。
 早急に総合診療医が魅力を感じるような環境と、Mega clinicの創生を図るべきと考えます。