第733号

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日州医事 第733号
医師不足は「総合医」ではなく、『医師能力発揮環境整備』で応えるべき

日南市 きよひで内科クリニック 河野清秀

 “Doctor! I have a Wegener’s disease.” “I am confused.” 今年3月、豪州国際内科学会出席の途中のSydneyでの事、知り合いの女性より相談を受けた。彼女は、心、肺、腎臓等の6人の専門家より別々の治療提案を受けて混乱していた。内科医である私に意見を求めたのである。豪州は英国に習ってgeneral practitioner(GP)を窓口として医療を展開している。しかしGPはあまり設備がなく、少々複雑な病気は直ぐに専門家に紹介せざるを得ない。しかも各専門家は細分化されている。日本であれば、かかりつけの開業医が膠原病の専門家と連携すればよく、少なくとも豪州より、患者は迷わなくて済みそうである。
 ところが、昨今、政府は主に医師不足、医療費抑制の面から総合医(GP)を提唱している。しかし、今までも開業医はできるだけ地域の人を診てきた。その上に機器等の設備を整え、治療の幅を広げて総合医として存在してきた。それが世界に誇れる日本の医療を支えてきたのだ。いまさら総合医構想は、開業医に何をやらせようとしているのか。

 そもそも医師は眼前の患者のすべてを何とかしたい、治したいと思う。医師が専門だけに閉じこもるのは、他職種でもできる事をやらされて、勉強する余裕を奪われ、すべての責任を負わされる制度に起因するのではないか。訴訟には、医師の側に立つ弁護士の即座の対応、医療秘書と合わせた電子カルテや電子書類の採用、看護師や検査技師の活用拡大等を実施する。とにかく医師は医師しかできないことだけを専念し、ほかのすべては他職種に任せる。それで、安心して医療に従事でき、時間の余裕ができる。「患者を治したい、苦しみを何とかしたい」との思いを充分発揮できれば、医師は今よりも患者を1.5倍以上は診ることができ、更に診療領域も広げることができる。時間外は担当医時間交代制で乗り切ればよい。とにかく医師能力発揮環境を整えるのが先決だと考える。