第702 号

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日州医事 第702号
Historical thinking, now action-温故知新-

日南市 きよひで内科クリニック 河野清秀

 「線維筋痛症の可能性大です。残念ながら、この病気はあまり効く薬がないのですよ」診察を終えて、再診の40代女性N氏に言った。線維筋痛症の圧痛点を調べ、診断基準から診断し、この患者さんに話したのだ。
「しかし先生、この前処方された漢方が良く効いたようです。又ください。」
 このN氏は、2週間ほど前、「2~3年前より不眠、めまい、背部痛等を訴え」、色々な病院を巡られ当院に初診で見えた人であった。この時の診察では、腹診で血証あり、とりあえず更年期障害の診断で、桂枝茯苓丸を処方したのだった。N氏初診から3日後、N氏と同じ様な症状を訴えられる50代女性S氏が来院され、「線維筋痛症ではないか、調べてほしい」と依頼があった。私はこの病気は知ってはいたが、実際、診察診断したことはなかった。そこで診断基準どおりに検査診断をし、同症疑いとして宮崎大学膠原病内科へ紹介状を書いた。大学から「診断は可能性あり」との返事を戴いた。そうした事でN氏はS氏同様の線維筋痛症ではないかと考えたのだった。

 ところで、桂枝茯苓丸の処方は金匱要略の出典で、1500年以上の生き残っている処方で、漢方では更年期障害の有名な処方である。現代病と思われる線維筋痛症に効く可能性があるとは驚きであった。
 しかし、よく考えてみるとそんなに簡単に人間の構造が変化するはずがなく、本症の本体が中枢性神経性疼痛と考えられている以上、昔からあった疾患で桂枝茯苓丸の証として治療され改善されていった可能性があるのではと考えた。
 目の前の苦しむ患者さんを見て、治すためあらゆることをするのが医師の勤めである。東洋の伝統医学である漢方の有用性を改めて思い起こした次第であった。